キミに絶対約束する

  絶対約束するよ。バスケをしていたら必ずどこかで会えるって…

『さぁ、今日も部活がんばっていきましょう!!』
「はい!!」

 まだ涼しい春を迎えて一週間しか過ぎてない日だった。
春賀高校では高校総体前で練習に打ち込んでいる部活生でにぎわっていた。
宮川なつきは今年、春賀高校の三年になる。バスケット部に所属していてキャプテンを勤めている。
バスケット部はけして強いわけではないが、チーム内の中はとてもよい。
きっとなつきのがんばりにみんなが動かされたのであろう。
しかし、彼女がキャプテンに選ばれることを誰が予想していたのだろうか。入学当時まわりには地区の選抜メンバーが五人もいたにもかかわらず、彼女はキャプテンに選ばれてしまったのだ。


すべては二年前の入学式から始まった。


「なつきーバスケ見にいこー??」
隣のクラスから女の子が顔を出している。後ろのドアに近い位置に座っている女の子に話しかけたのだ。
「ソフト!!」
 がたんとおとがして、女の子がいすから立ち上がった。どうやら彼女には聞こえてないようだ。
昼休みだったため、彼女の声は周りのクラスメイトには聞こえなかった。
「ソフト??何いきなり。ソフトってソフトテニス?」
「違う!ソフトボール!決めた。順子!私上野投手のようになってオリンピックにでるっ!新たな目標に向かって走り出すぞ!おー!」
手に持っていた月刊ソフトボールの雑誌を順子に見せて、張り切って片方の手を突き上げた。
それを黙ってみていた順子はため息をついた。
ソフトボールって、相変わらず急だね。でもうちらの高校女子ソフトないらしいよ?」
「え?うそーん。それ誰情報よ!予定と違う〜。」
「健ちゃんがいってたもん。それにあんた予定って、バスケ入るんじゃないの?今年、選抜のメンバーそろってるらしいし、監督も若い経験者の先生だって。」
健ちゃんとは順子の幼馴染でソフトボール部を小学校からしている。高校でもソフトボールに入るらしい。
「バスケ?あぁ、そんなスポーツもあったね。へぇ、選抜メンバーに指導者もちゃんといる。最高の環境だね。」
 発している言葉はいかにも楽しみだといえる内容かもしれないが、なつきの目はあきらかに変わった。どこか遠くを見つめているようだった。
「また昔みたいにがんばろうってこの前言ってたじゃん。」

「昔ね、てかそれも昔の話だし。あ、それより売店いってくるわ!中学にはなかったから、めちゃきになるんだよね。」
そういって、なつきは話をかえ、財布をとり、売店に向かって歩きだした。
そんななつきを見て順子はまたため息をつくのであった。
なつきの友達の順子は小学校時代からの仲で同じバスケ部だった。
順子はそれとなく理由を察していたが、そこにはあえて突っ込まなかった。黙っていてもなつきは必ずバスケをしに戻ってくる。なぜか確信していた。
(やめれるわけないでしょ…このままで…)
順子はこころのなかでつぶやいた。

 そのころなつきは売店でメロンパンかクリームパンのどちらにしようか迷っていた。
「どっちも買いたいけど、一応弁当あるしなぁ。でもどっちも一個しかないからなぁ。よし、二個買って帰りに電車で食べよう。うん、そうしよう。でもなぁ最近体重増えてるし…。」
 なつきがぶつぶつ独り言をいっていると、
「メロンパンとクリームパンください。」
「え?」
どちらを買おうか考え中だったなつきの思考回路がとまった。自分が買うはずだったパンが隣の男子生徒の手に渡った。なつきが買おうとしていたパンはどちらも選択肢から削除されたのだ。
「ちょっと!あたしが先に並んでたでしょ。順番待ちなさいよ。」
男子生徒の腕をつかんで、なつきは言った。
「何?」
「だから私のパン…」
すると男子生徒は一瞬だけなつきを見ると後ろのほうに目をやった。
「うしろ、並んでるから。」
なつきは後ろを見ると、早くしろよとばかりににらみつけて来る生徒たちと目が合った。
「じゃ、そういうことで。」
男子生徒はそそくさと立ち去った。
「ちょっと!!」
むかつくなぁ。なんか一気に食欲なくしたし。なつきはしぶしぶアンパンを一つだけ買い、教室に戻った。

HRが終わり生徒がそれぞれ帰ったり、部活に行こうとしているなか、なつきは半切れの紙を見てボーっとしていた。
グランドからはサッカー部やラグビー部の声が聞こえだしていた。

席を立ち、教室を出ようとした。すると、ある女の子から呼び止められた。

考え事をしていたなつきは教室にもう1人女の子がいることに気づかなかったのだ。
女の子はなつきのところまで近づいてきた。
「尾野中のなつきちゃんだよね?わたし春賀中の萩原夕貴。バスケの試合で何度か対戦したことがあるよね。覚えてる?」
なつきの頭の中の女の子と目の前の女の子が一致するまでにはそう時間がかからなかった。
「覚えてるよ。選抜のキャプテンさんだよね?わたしなんかのこと知ってるんだね、うちら弱小だったのに。」
「おぼえてるに決まってるじゃん。小学校のときからあこがれてたもん。中学ではあまり結果は良くなかったみたいだけど…」
 夕貴はしまったと思ったのであろう言葉を濁した。
「バスケ部はいらないの?」
 夕貴は話を変えようとなつきにきいた。本当はこれが聞きたかったのだろう。
「バスケ?さぁ、わかんないかも。萩原さんは?」
「ゆうきで良いよ、私も迷ってる。別のことがしたくて、」
「別のことって?」
 なつきは半ばどうでもよいと思いながら、一応聞いてみた。
「音楽関係に興味があって、歌とか好きなんだよね。」
 なつきは相槌を打ちながら、適当に聞いていた。
「でも、選抜の子とかに誘われてて…」
 そりゃ選抜メンバーの子達はほっとかないだろ、とかなつきはおもいながらそうだよねとうなづいた。
「そうだ。なつきちゃん今日今から暇?」
「予定は何もないけど…」
 言った後でなつきはしまったと思った。
「じゃぁ、一緒にバスケ見学にいかない?1人だと行きにくいし、それになつきちゃんとだったら、なんか安心できる。」
 初対面の人にここまで信頼を寄せる子はそういないだろう。なつきは不思議な子だなぁと思った。バスケしてるときとイメージがぜんぜん違う。
こうしてなつきたちは体育館に向かったのだ。